「ほうら、お年玉だぞ」
にこにこと満面の笑みでポチ袋を差し出す上官に、は苦い顔をしてみせた。
「いや、隊長……俺お年玉貰えるような年じゃないし、そんなに全開の笑顔で来られても対応に困るっつうか」
浮竹の構える屋敷、その厨でいつものように割烹着姿のは、伊達巻きの火加減を気にしながらそう答えた。浮竹の懐から取り出されたポチ袋には「お年玉 くんへ」と記されており、それがまたの表情を心許なくさせる。はっきり言って彼は対応に困っている。
「何を言うんだ!おまえは我が家の居候、家族も同然なんだからお年玉を貰って当たり前だろう!」
ほら、遠慮せずに受け取れ。拒否されることをまるで疑わないその仕草にはくらり、と目眩がした。何なんだ、この人のこの純粋さは。長年仕えているものの、未だに慣れないのは浮竹のこういう部分だ。
「はぁ、じゃあありがたく受け取らせて頂きますけど」
「後で市街の方に出てみろ。正月だからな、色んな出店が出ているはずだ」
「うん、隊長。俺もう林檎飴とか焼きそばの屋台で喜ぶような年じゃないからな」
念を押すように言ってはみるものの、当の浮竹は伊達巻きの焼ける甘い匂いに心惹かれているようで耳に入っていない。まあ、いいか。と軽く肩を竦めて伊達巻きをまな板の上に移す。
「おめでとうー浮竹ー来たよー」
玄関の引き戸が開かれる音と、間延びした呑気そうな声に浮竹が振り返る。
「お、京楽か」
「はいはい、隊長。すぐに座敷に料理運ぶんで、京楽隊長のお出迎えお願いしますよ」
切れ端をつまみ食いしようとしていた浮竹の背中を押し出して、厨から追い出す。京楽が持参したであろう焼酎に合うように作りかけていたつまみの仕上げに取りかかる。玄関の方から旧友同士の新年の挨拶が聞こえる。出来上がった料理を小鉢に移し替えながら、は微笑んだ。やっぱりこうしている時が楽しい、と。
ゆく年くる年 小噺Ver.2
完成日
2010/12/26